モンスターダイアリー

第一話
「おーい、ムツもらえる?」
「かしこまりました」
いったいなんのことなのか。
『ムツ』とは人名だ。
本名上尾 陸奥(カミオ ムツ)25歳。
ここ新橋にある歌舞伎レート雀荘『エイティーン』で働く麻雀の怪物、モンスターのような男のことを指す。
いつしかお客もモンスターエナジーのドリンクを注文する際「ムツ頂戴」と言うのが当たり前になっていた。
ただ、彼のモンスター性はその雀力だけにとどまらない。
これは平凡な雀荘メンバーである僕、棚辺 渉(タナベワタル)による彼の観測日記である。
第二話
さくら さくら ただ舞い落ちる〜♬
店内の有線には2000年代J-POPヒットソングチャンネルが垂れ流されている。
「おー。懐かしいよ。いい歌だよなこれ、なあ?」
話好きな常連の佐伯のとっさんが上家のカミオムに軽いキャッチボールを仕掛けた。
「ええ。福山雅治最高ですね」
ムツが笑顔で答える。
僕は椅子から転げ落ちそうになった。
この男は平然と投げられたボールを一切の悪意なくことごとく場外に吹き飛ばすのだ。
「やっぱお前は怪物やなあ」
とっさんもムツあまりにも自然な返しにワハハと関心していた。
第三話
福山事件の回のオーラス、僕は19000点持ちののラス目ラス親だった。
トイメンに座るムツは21000持ちの3着目。
トップ目のとっさんが29400点持ちとそこそこの僅差と言っていい状況だ。
『エイティーン』のルールは赤4金1の歌舞伎レート東風となっている。
祝儀牌の枚数も多いためこの点差くらいなら1局で逆転トップもザラにある。
配牌を開けると















好配牌だ。一撃でトップが見える。
僕はから切り出した。
すぐにが出てポン。打
2巡後にも鳴けた。打
次巡に引いてきた一枚切れのを安全牌として抱え、
を切る。
4巡目にして満貫3枚の仕掛けが聞くリャンメンリャンメンのイーシャンテンだ。
も場に姿を見せていないため他家のなかなかまっすぐはきづらいだろう。
僕は和了への手ごたえを少なからず感じていた。
第四話
そこへ3巡後、ムツが⇨
と手出しで切って牌を横に曲げた。
「ッチです」
低い声が卓内に響く。
「おいおい大丈夫かあ?そのリーチ」
「が見えてねえけど」を省略してとっさんがムツに話しかけた。
「牌に聞いてみます」
劇画のようなセリフに飲んでいる炭酸水を吹き出しかけた。
「チモです。満貫の二枚です」
1発目のムツのツモ山に置かれていたが彼の手元にに引き寄せられた。
開けられた手は













とっさんが2打目に一枚切っている残り3枚のペン待ちだった。
「そんなのでよく親の鳴きに向かっていったなあ、えれえよ」
トップをまくられたとっさんが皮肉を言うと
「これを行かないとペンチャンの神様に怒られそうだったので」
言っていることだけは意味不明だ。
しかし僕の僅かにヌルい切り順をこの男に咎められた結果には間違いない。
僕の手拍子の落としを見てムツは0枚切れの嵌
受けを払って1枚切れのペン
受けを残したのだ。
ラス目で威圧感のあるポンの仕掛けならば河の強さをケアして切り順は
⇨
にすべきだし、
はツモ切って
は次の安全牌まで引っ張るべきだった。
それならばこのモンスターも僕にの持たれを警戒してターツ選択を誤った可能性が高い。
「愛と知っていたのに〜♬」
逆転トップを果たしたムツがiQOSを片手に超小声で口ずさんでいたのを僕は聞き逃さなかった。
この記事を書いた人
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当ブログの編集長。とある東風のフリー雀荘でメンバーをしている。
漫画、読書、映画鑑賞が趣味のありふれたおっさん。
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