【麻雀小説】モンスターダイアリー【5-8話】



モンスターダイアリー

 

1-4話

 

5話

 

 

『エイティーン』はレートこそ歌舞伎だが、卓の雰囲気はどちらかといえば場末雀荘寄りのことが多い。

 

 

ついこの間も常連のみの卓で

 

 

「僕最近麻雀強いんですよ〜。ほら、リーチです」

 

「そっか、確かに〇〇さん最近ジム通ってるって言ってたもんな。だからでしょ?」

 

「いえ、答えはその牌です(指差してロン)パタッ。ライオンの宮殿」

 

「ん?」

 

「レオパレスです、むこうで言うところの」

 

「あーなるほど。参った。おーい!ヒットポイント(チップ)くれ〜。」

 

 

 

といった場末特有のややレベルの高い(意味不明とも言う)やり取りが行われていた。

 

僕は個人的にこの店に集まる常連のお客達の場末風な緩さがありつつも新しいお客さんに対しては排他的な空気を出さない絶妙な距離感を非常に気に入っている。

 

 

6話

 

 

僕とムツ以外に昼の『エイティーン』で働く主要メンバーを紹介したい。

 

 

店長の氷川

 

 

端正な顔立ちに少し明るい今風の髪型、黒ブチメガネがトレードマークで若干29歳にしてこの店の店長を務めている。

 

ひと昔前はネット麻雀で有名人だったこともあるらしい。

 

 

 

 

「惜しかったですね」が口癖なのだが、

 

以前お客が倍満3枚の1発ツモ牌を誤ってツモ切ってしまい逆にその牌で自分が満貫をアガったときに

 

「いやー、惜しかったですね」

 

を言ったときは店長を心から尊敬した。

 

 

風間

 

店長の次に出勤回数の多い男。28歳。

 

いい歳して某有名女性アイドルグループのイベントに足繁く通っている。

 

 

「推しメンの握手券当選したから頼む!」

 

と土日祝の三連勤シフトの丸ごと交代を頼まれたときは流石の僕も痺れ返った。

 

 

 

ムツとはこの雀荘で働く前からセット仲間だったらしいが恐らく単にカモにされていただけと思われる。

 

麻雀も弱いのであまり本走に行きたがらずレジ裏で店のお菓子ばかり食べ散らかしている。

 

 

派遣社員の佐藤

 

 

シフトに入る回数は少ないが、たまに出勤するとイリュージョンパズルのような麻雀で囲む者の意表を突いてくる。

 

僕の前だけでリンシャンのみの400.700、400.800を計3度もアガっている。

 

 

つい昨日仕掛けもリーチもない場の東一局にダブ西:麻雀王国のみの3副露状態から4副露目をペンチャンチーで入って字牌切り、

 

なんの脈絡もない二萬:麻雀王国単騎2000点を8巡目にアガって同卓者を笑わせていた。

 

 

温厚で人当たりも良く話も面白いので、お客からはかなり好かれている。

 

 

以上3人に僕とムツを合わせた5人が主要メンバーだ。

 

人手不足のため常に求人は行なっているが、ほとんどの新人はレートかムツに潰されてひと月以内に店を去ってしまう。

 

 

7話

 

 

『エイティーン』では特にメンバー間の本走の番手が正式に決まっているわけではない。

 

ただ、本人はもちろん周囲も多少差はあれどそれを望んでいるからだろう、ムツは基本的に店に存在している間は問答無用で1番手で本走することで皆納得している。

 

 

 

その日も開店後最初のお客は佐伯のとっさんだった。

 

 

スリー入りで一周打ち終わった頃、これまた常連の菊鈴のオッさんが勢いよく扉を開けて来店した。

 

 

『菊鈴さん丁度始まるとこです!南家以外どこでもいけます。場所どちらにされますか?』

 

 

店長の氷川が聞くと、

 

 

「うーん。そしたら僕ここにします。」

 

 

週の半分は来てくれるにもかかわらず一見威圧的な風貌に反して非常に低姿勢な菊鈴のオッさんはムツの席を指差して言った。

 

常連は殆どの人物が絶対強者であるムツとの同卓を避けるため、彼を含むツー入り以上の卓にご案内される場合はムツを退かそうとする。

 

だが、大抵の場合

 

 

「ムツくんこっち入る?」

 

 

氷川がムツに本走交代を促した。

 

 

このように残った従業員の場所にムツが移動するため、そのささやかな抵抗は大抵無駄に終わってしまう。

 

その2ゲーム後に現れた五十嵐という色黒の若者客もムツのサイドテーブルのカゴの中に建設されたチップのタワー群に恐れをなしたかムツ席を指定したが、

 

今度は僕が座っている席にムツが再び横移動したのだった。

 

 

8話

 

 

「チーです」

 

 

ムツと本走を代わった僕が後ろで彼の麻雀を見ていると、こんな形から6巡目に親のムツが仕掛けた。

 

 

四筒:麻雀王国五筒:麻雀王国四索:麻雀王国五索赤:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国八索:麻雀王国九索:麻雀王国八萬:麻雀王国八萬:麻雀王国  チー五萬赤横:麻雀王国四萬:麻雀王国六萬:麻雀王国   ドラ八索:麻雀王国

 

 

上家が切った五萬赤:麻雀王国を食って三色の片和了聴牌である。

 

 

「次々と場所が変わって忙しいやっちゃなあ。一周する気かいな」

 

 

トイメンに座る佐伯のとっさんがムツの顔を見て言った。

 

 

「旅ができて楽しいですチーです」

 

 

ムツが笑顔でわけのわからない返しをしながらまた鳴いた。

 

上家から出た六筒:麻雀王国を。

 

ん?六筒:麻雀王国はアタリではなかったか。

 

よく見るととっさんが同巡に三筒:麻雀王国を切っていた。

 

 

なるほど、同巡でアタれない六筒:麻雀王国を打たれたので鳴いてフリテンの3面張に受け変えたというわけだ。

 

あんな意味不明のことを喋りながらよくも瞬時にこの珍しい六筒:麻雀王国が鳴けるもんだと後ろで見ていて感心した。

 

 

「チモです。満貫の3枚です」

 

 

4巡後、三索:麻雀王国がムツの手牌の横にそっと置かれる。

 

 

「えー?なにフリテンの満貫三枚?ちょっと強すぎじゃない?」

 

 

菊鈴が少し戯けた口調で言うと、

 

 

「そういうこともありますよ。麻雀はワインみたいなものですから。」

 

 

ムツが深いのかなんなのかわからない発言をして場をショートフリーズさせていた。

 



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へんしゅうちょー
当ブログの編集長。とある東風のフリー雀荘でメンバーをしている。
漫画、読書、映画鑑賞が趣味のありふれたおっさん。

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