【麻雀小説】モンスターダイアリー【9-13話】

 



モンスターダイアリー

 

1-4話

5-8話

 

 

9話

 

 

 

「やっべーぞ!」

 

 

 

開店直後のノーゲスで静まり返っていた『エイティーン』に大店長・氷川の声が響き渡った。

 

 

 

「ウワッハッハッwww店長ww上手いですww」

 

 

 

氷川がコロチキのモノマネを突如披露したと勘違いし勝手に笑い転げていたムツを完全にシカトし、店長が僕にスマホの画面を見せてきた。

 

 

 

「すみません。肩が痛かったので整形外科に行ったところ、医者に麻雀を禁止されたため今月はもう出勤できなそうです」

 

 

珍しく月初の3出勤の本走で15万ほどアウトを増やした風間から診断書の画像とともに送られてきたLINEの画面だった。

 

 

 

十中八九、3日で普段の1ヶ月分の倍の給料を稼いだため出勤する気が失せたのだろう。

 

ネットリテラシーだけはムダに人並み以上ある風間のことだ、おおかた中国の偽診断書作成サービスかなにかでも使ったに違いないというのが店長と僕の共通の見解だった。

 

 

 

タダでさえ常時人が足りていない『エイティーン』にとって、風間の退場はかなりの大打撃だ。

 

 

 

「クックックッwww」

 

 

 

未だに笑い散らかしているムツと、レジ奥のカウンターで頭を抱えている氷川の光景を見て、僕は心底店長に同情した。

 

 

 

10話

 

 

 

「おはざっスー!」

 

 

長身で明るい色をしたロン毛の男が勢いよくドアを開けて出勤してきた。

 

風間のいない穴を埋めるために現れたのは村守という店長の古くからの友人だった。

 

29歳。長身で、一昔前のヴィジュアル系ロックバンドのような髪型をした風貌の男だ。

 

 

普段は点5のフリーの店でヘルプをしているらしい。

 

 

外見とは裏腹に堅実な麻雀を打つ村守は白ポッチを異常な回数シケるが、手牌読みの精度を頼りにした粘り強い打ち回しで毎出勤勝っている。

 

 

接客も程よい距離感でそつなくこなすため勝ち続けていてもお客さんには好かれていた。

 

そんなある日のムツと村守のツー入り時に事件は起きた。

 

 

11話

 

 

『エイティーン』では新しく卓を立てる際、上がってきた山を一回崩し次に上がってきた山から闘牌をスタートする決まりとなっている。

 

 

これは店側が自動卓の下にセットされた山に天和を仕込む等の不正を行っていないことを主張する儀式のようなもので、

実際に不正をしている可能性があることを疑うお客などいないし、最初の山を崩さない店も多数存在している。

 

 

 

 

その日は1卓が僕のワン入りで待ち席に新規の林原という若いお客さんが一名。

 

 

陸奥、村守の2人が立ち番という布陣だった。

 

そこに

 

 

 

「かぁーっ!汐留のウインズは気取っとるなあしかしよぉ」

 

 

 

イタリア風の外観をしたお洒落な馬券場を罵倒しながら登場したのはおなじみ佐伯のとっさんだった。

 

 

 

「新しく卓を立てようと思うのですが、このゲームで終わられる方はいらっしゃいますでしょうか。」

 

 

 

村守がラス半のお客さんがいないことを確認してテキパキと2卓目をムツとのツー入りで立卓したが、ここで問題が起きた。

 

 

 

起親の村守が最初の山を崩し忘れた状態で第1ツモに手を伸ばしたのだ。

 

ただ、それだけならまだ良かったのだが、

 

 

 

 

 

「・・リーチです」

 

 

 

あろうことか、若干気まずそうに村守が第1打を横に切った。

 

12話

 

 

 

もちろんタブリーが入ったのは単なる偶然だ。

 

 

本人はお座り1局目にタブリーをかけること自体に気まずそうなパフォーマンスをしているだけで山を崩し忘れたことには一切気がついていない。

 

 

 

 

「ん?もしかして最初の山崩してねえんじゃないか。やり直しだろ?」

 

 

とっさんがすぐに指摘した。

 

 

村守は一瞬ハッとして

 

 

 

 

「スンマセン!やり直しますか?」

 

 

 

手牌を伏せて店の先輩であるムツの方を向いたが、

 

 

 

「申し訳ございませんが場決めは公平に行われていますし、第1打が切られてしまっているのでこのままお願いします」

 

 

 

ムツが大振りなハンドジェスチャーを交えて続行の裁定を下した。

 

 

 

「おいおい、そんなことあんのかい。メンバーが山崩し忘れてダブリー成立するなんてよぉ」

 

 

 

とっさんは普段はいいお客さんだが、こうなると若干面倒な側面もある。

 

 

 

 

「恐れ入りますが、次に従業員が山を崩し忘れたときに佐伯様がダブリーした際も必ず続行させますのでお願い致します」

 

 

「そんな状況二度とこんやろが!」

 

 

 

ごもっともだ。

 

 

ムツの的外れな説得に別卓の僕は吹き出しそうになったが、とっさんは完全に不貞ってしまったようだ。

 

 

村守は俯き気味で気まずそうに牌をツモ切り続けた。

 

 

新規の林原は黙ってダブリーの現物を淡々と合わせ打っている。

 

13話

 

 

 

村守のダブリーはツモりも出もしないまま捨て牌3段目に差し掛かった。

 

 

とっさんは序盤こそ端牌を何枚か押していたが捨て牌2段目後半あたりから降り始めている。

 

 

ムツは特段強い牌を打つことなく降りているようにも見えたが、13巡目にスッと無筋の6mを切ってきた。

 

 

場にはとっさんが切った白が一枚でているだけで白ポッチは見えていない。

 

 

ちなみに村守のダブリーの手は

 

 

 

五筒赤:麻雀王国五筒赤:麻雀王国一索:麻雀王国二索:麻雀王国三索:麻雀王国五索:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国三萬:麻雀王国四萬:麻雀王国六萬:麻雀王国七萬:麻雀王国八萬:麻雀王国      ドラ一索:麻雀王国

 

 

 

だったそうだ。ポッチでもツモろうものなら非難轟々だったに違いない。

 

 

 

村守の残すツモ番は一回となった。

 

 

「おいおいポチ公が見えてねーじゃねーか。勘弁しろよ、ここまで来てダブリーでポッチなんて」

 

「ポッチやめい!前!」

 

 

村守が海底1つ前の山から引いた牌を空中に滞在させている0コンマ何秒かの間にとっさんが言い放つ。

 

 

 

 

その牌は前に切られた。

1枚切れの中だった。その中に

 

 

 

「ポッチの裏スジですね。ロンです」

 

 

ムツの意味不明な声がかかった。

 

 

 

 

一萬:麻雀王国一萬:麻雀王国二萬:麻雀王国二萬:麻雀王国五萬:麻雀王国五萬赤:麻雀王国八萬:麻雀王国八萬:麻雀王国九萬:麻雀王国九萬:麻雀王国白:麻雀王国白:麻雀王国(ポッチ)中:麻雀王国

 

 

 

「跳満の一枚です」

 

「あざーっス!」

 

 

 

大人な村守が気まずい雰囲気を払拭してくれたムツに謝辞を述べて気持ち良く点棒と祝儀を払う。

 

 

 

「やっぱお前は人間ちゃうわ」

 

 

 

 

「それほどでも。」

 

 

天然で卓内に和平をもたらしたムツははにかんで答えた。

 



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へんしゅうちょー
当ブログの編集長。とある東風のフリー雀荘でメンバーをしている。
漫画、読書、映画鑑賞が趣味のありふれたおっさん。

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