【麻雀小説】蒼山三段物語

麻雀界で一世を風靡した『蒼山三段物語』を作者の方の許可をいただいて、

 

当サイトの記事として転載させていただきました。

 

※この物語は実際の人物を元に作ったフィクションです。

 



蒼山三段物語

 

第1話

 

子供の頃の電車の中で祖母と話した記憶が蘇る。

おばーちゃん、あの田んぼの中の人形さんはなんなの? あれはねかかしと言ってお米を食べる鳥さんを怒る為にある人形なんだよ。

みんなのお米を守るためにずっと立っててかかしさんは大変だねえ。

 

 

20年後、まさか自分がクアトロの立番専門の歌舞伎のかかしと呼ばれるとはこの時には想像すらできなかった。

 

 

それでも自分は歯を食いしばって鳳凰位になるまでは麻雀界に必ず残っていかなければならない。

どうしても許せないあいつを倒すまでは。

 

第2話

 

競技麻雀の世界は厳しい世界だ。

 

それだけで食っていけるのはほんの一握り。

自分も鳳凰位になるまでは日々の生活費を稼がないといけない。

 

自分が働いているのは新宿歌舞伎町のQという東風戦のお店だ。

ここの店は東京でもかなりレートが高いので集まる客も従業員も精鋭揃いである。

 

まずは同じ昼番の働く仲間達を紹介しよう。

 

マーネジャーのタケイ

 

この人がQのボスであり麻雀は降りることを知らないアンドロイドみたいな人間だ。

頭の中はシャドウバースという主に小学生で流行っているスマホゲームの事ばかり。

自分もゴマをする意味で始めたがいい大人がやれるわけがない。

 

ただ時々

 

「社長あのカード強いですよね?」

 

みたいな会話をふると本当に嬉しそうな顔をするので、シャドウバースをやっとけは首にはならないと踏んでいる。

 

第3話

 

引き続きQの従業員の紹介をしていこう。

 

 

店長のサイトウ

 

最高位戦所属Bリーグ。

 

麻雀のプロ団体はいくつもあるが、自分が所属する連盟以外は麻雀サークルの延長みたいなものだ。

 

最高位は歴史はあるが最高位戦のAリーグで連盟のCリーグぐらいなので店長は連盟ならDリーグぐらいの実力と思っている。

 

 

ちなみに同僚のナカバヤシの所属する日本プロ麻雀協会に至ってはさらに格は落ちるので、いつもそれを自慢するナカバヤシに憐れみを感じずにはいられない。

 

ただ店長は温厚だし、店のまとめ役としては最高だ。

麻雀もボーッとしてるからだいたい負けてくれる最高の上司だと思っている。

 

第4話

 

続いてクアトロの従業員の紹介をしよう。

 

日本プロ麻雀協会所属 ナカバヤシ

 

大学も中退、バツイチとすべて中途半端な男だが麻雀はなかなかしっかりしている。

 

 

もう一人のプロのコヤマは普段は温厚だが、

麻雀負けてキレた時は鬼の形相になりおしぼりを顔に当てながら第一打から赤牌や金牌を切ってくる恐ろしい男だ。

 

 

ウェイトレスもこの店はみんなしっかりしている。

 

サカモトさんの30分トイレ籠り以外はみんな頑張っていると思う。

 

 

なかでもシバタさんには頭があがらない。本当にいい人だ。

後50キロぐらいダイエットしたら付き合いたいぐらいだ。

 

第5話

 

Qのルールは金二枚赤二枚それぞれ1000P2000Pの祝儀がつくルールだ。

 

少し和了れないとプロでも50000P程度はあっというまに負けてしまう。

 

このルールで同じ配牌とツモなら絶対負けないと言っているコヤマは本走中に大麻吸ってるとしか思えない。

 

動くお金が大きいぶん給料もいいが、アウトオーバーで消えて行くメンバーも多い。

 

自分は連盟プロとして培った技術と魂で必ずこの店の客、メンバーを食いつぶしていかなければならない。

 

この物語はおれのQでの日常と戦術、そして許せないあいつについて書いていこうと思う。

 

第6話

 

俺はよく目つきが悪いと言われるが、それはこの2年間人前で笑っていないからだ。

 

笑うのは家に帰ってロシアンブルーのひっぽを抱きしめる時だけだ。

 

二年前に俺から笑顔と彼女を奪い去ったモンキーリバーを倒して鳳凰位になるまでおれは人前で笑うことはないだろう。

 

自分の麻雀は態勢を意識して押し引きする、いかに自分の雀風が出来上がったかを次回から書いていこうと思う。

 

麻雀に悩んでいるそこの君是非参考にしてくれ。

第7話

 

東1局にいきなり満貫をあがるとしよう。

 

ほとんどの人はそのリードを守る打ち方をして態勢を悪くしてしまう。

 

目に見えてる数字のリードだけを見ているからだ。

 

自分は満貫上がった次局は絶対に降りない、ハネマンあとなら3シャンテンでもリーチに押す、そして流れを引き寄せる。

 

これが連盟プロの最強打法だ。

 

 

今日も東発簡単な平和ドラ2をリーチしてツモ上がりトップ目で迎えた2局、

配牌を開けると祝儀牌、ドラはないがカンチャンペンチャン残りの2シャンテンだった。

 

「会長ありがとうございます」と打牌を進めると第1ツモでイーシャンテン。

 

押し寄せるマグマのような流れを感じずにはいられなかった。

第8話

 

自分の態勢を確認した状態で4巡目に親のリーチが飛んで来た。

 

一発目のツモは不要牌の金五萬。迷わずノータイムでツモ切りを選択。

 

流れを信じていない人ならば信じられない打牌だろう。

 

だが俺は「会長ありがとうございます」と心の中で囁きながら切った、その刹那

 

 

「出るかねぇ金が」

 

と言う親のデグチさんのロンまがいの発声と同時に後ろ見をしていたナカバヤシの口から噴き出したコーヒーまで背中に降りかかった。

 

リーチ一発金裏

 

連盟ルールなら二千点の手牌もクアトロでは満貫の4000Pになってしまう。

 

俺はラス目になったが態勢を理解している人から見れば自分がトップ目である事は一目瞭然だった。

第9話

 

ラス目で迎えた3局の親番。

流れが澱むような打ち方はしていない。

 

 

必ず結果が出るはずだと信じて配牌を開くとタンピン系のイーシャンテンしかも三面張が2つ残りだ。

 

3巡目にはなんなく聴牌。

 

心の中の会長はさっきの振り込みを踏まえて闇を選択した。

 

次巡に3面張をツモ上がり1300オール。

 

後ろ見しているナカバヤシの鼻からは昼飯のうどんが飛び出していた。

 

 

ナカバヤシもマグマ流れを感じたんだなと俺は悟った。

第10話

 

自分の態勢と流れを大切にするマグマ打ちは簡単に言うなら満貫以上の手を上がった次局は絶対に降りないで流れを確実にしていく打法である。

 

連盟で会長から学んだこの打法で歌舞伎町の猛者達を倒せる自信しかなかった。

 

Qは朝夜五勝戦というイベントをやっているため朝の十時から社会の落伍者達が集まってくる。

 

土日になれば自称雀ゴロ達が集まり活気がある店だと思う。

 

今日も朝一本走でハネマンを引き上がり上々のスタートを切ったあとに事件は起きた。

第11話

 

「トイレ全然あかへんよ  」

 

と毎日クアトロに三万のカレーを食べにくる歌舞伎町一グルメなイシカワのとっさんが叫んでいた。

 

またウェイトレスのサカモトさんのトイレ三十分籠りが始まった。

 

 

その騒ぎの間になんと自分が少牌をしてしまった。

 

(あのブタウェイトレスのせいでなんで俺が損しないとだめなんだよ。)

 

そう思いながら少牌している自分の手牌はイーシャンテンの形となっていた。

第12話

 

態勢的にはマグマ噴火状態、手牌は少牌。

 

このタイミングで親からリーチが来る。

 

絶対和了れない手牌。

しかしマグマも止めたくない。

 

クアトロ本走一番の難所がやってきた。

 

 

心の中の会長が選んだのは目先の点棒ではなくマグマであった。

 

イーシャンテンをなるべく維持しながらリーチに危険牌を通していく、やはり当たり牌を持って来ることはない。

 

後ろでコヤマが笑っているが、(お前笑う暇あるなら鼻毛抜いてこい)と心の中で笑い返していた。

第13話

 

少牌でリーチに押していく自分の麻雀をQのメンバー達や客の中に理解できている強者はいない。

 

連盟員でも歴代の鳳凰位ぐらいしかわからない打牌をいま俺はやっている。

 

残りツモ一回で無筋のドラ表七萬を持ってきた。

 

自分には不要牌だ、且つ少牌している。

 

 

さすがの俺も(やっぱり他の団体に入れば良かったか)という思いがかすめたが、ツモ切りを選んだ。

 

「そいつは高めだ」とデグチさんの発声とほぼ同時に「それラス牌やで」とイシカワのとっさんの手牌から開けられる二枚の七萬。

 

 

後ろで見ていたコヤマはその場は

 

「デグチさん発声はロンでお願いします」

 

とやんわりと注意したが、

 

後から聞いた話ではイシカワのとっさんに(突っ込むところはそこじゃないだろう)と思っていたという。

 

 

 

一カ月後本走は三番手となり仕事内容は代走、買い物、掃除などに変わっていた。

案山子編に続く

 

 



この記事を書いた人

りょう
りょう
ブログ『蒼山三段物語』で一躍有名になった男。
謎の多き人物。