【麻雀小説】夜の巨人 金牌を切る男

麻雀界で一世を風靡した『蒼山三段物語』の作者が書いたアナザーストーリー。

許可をいただいて、当サイトの記事として転載させていただきました。

※この物語は実際の人物を元に作ったフィクションです。

 

 



夜の巨人 金牌を切る男

 

第1話

 

自分が働いているQには祝儀牌が赤二枚、金が二枚入っている。

 

赤は一万点相当、金に至っては二万点相当の扱いとなっている。

 

金牌があるだけでどんな悪い手牌もまさに輝いて見える。

 

金牌を切ればそれで打ち込んだり、鳴かれたりするだけで脅威だ。

 

協会のアガプロのように漢塾出身でない限り金牌を切るのは容易ではない。

 

 

しかしながらQのコヤマは麻雀においてかなりの実力者でありながらキレると第1打に金牌を切る。

 

麻雀を打っていてキレる事は誰でも経験あるだろう、不条理が麻雀というゲームの本質だ。

 

多面張のリーチが負けたり、自分より下手と思う相手が和了り続けたり、短気な人にとっては地雷だらけのゲームなのだ。

Qのブチギレ君と呼ばれているお客さんは自分が倍満上がった次局に3900を打ち込んだらもうキレているぐらいだ。

 

 

コヤマは育ちも良く、頭脳明晰、人当たりも良い。そんな彼が表情一つ変えないで金牌を1打目に切ってくる。

 

嘘のような話だがこれは真実だ。

 

Qの夜の風物詩コヤマの金切り。その話を聞いてほしい。

第2話

 

コヤマが金牌を切り出す時、それはまずは嫌いなメンバーが卓内にいるそしてその人に打ち込む、又は引き負けた時に椅子の背もたれに寄りかかりながら1打目に金牌を切っていくのだ。

 

コヤマプロと犬猿の仲と呼べるメンバーが二人いる。一人はナカムラ四段、もう一人は最高位戦の後輩オオハシだ。

 

 

第1打の金牌を喜んで鳴いたりするとコヤマは勝ち誇った顔で

 

「俺のクソヅモを喰らえ」

 

と流れを信じている蒼山三段でも言わないような事を言ってくる。

 

 

今夜はコヤマ、オオハシとの三人番。

 

なるべく二人を同卓させないように気を配っていたが、ヤベさんの恒例の突ラスによりコヤマ、オオハシのツー入りの卓が立ってしまった。

 

隣の卓で二人の様子を見ながらの本走となった。

 

第3話

 

開局親のコヤマは親で赤金3面張リーチを打っていた。

 

手牌同様、口も滑らかにお客さんとのトークを楽しんでいる姿を見て安心していた。

 

しかしその3巡後

 

「リーチです」

 

オオハシの高らかな声と 4巡後に開けられた大橋のリーチのみのカンチャンの和了形を見た次の瞬間、 椅子にもたれかかりながら背を反らせて顔は笑っているが眉はピクピク動く、キレているコヤマになっていた。

 

卓にいたトダカパパが

「親は何待ちだったの?」

とコヤマの手牌を覗き込んだ。

 

戸高が

 

「コヤマさんすげー手だねハネ満だよ恐ろしい、オオハシ君もよく追っかけたね?」

 

と言うとオオハシは

 

「二人も序盤に八萬を切っている人がいたから七萬待ちには自信がありました」

 

とトダカには通訳を交えないと通じない自論を語った。

 

この言葉を聞いているコヤマの血管が切れる音が店中に響いたように思えた。

第4話

コヤマに東2局でこんな配牌が配られていた。

 

 

二三五五(金)七九 ①③③⑥⑧ 5(金)78

 

 

よもやとは思ったが、コヤマの第1打には金五萬がそっと置かれている。

 

続いて九萬がノータイムで並べられた。

 

オオハシは半分笑いを堪えながらいつもの事かよ的な笑みを浮かべている。

 

 

 

その間コヤマは赤⑤、6と立て続けに有効牌を引き3巡後、

 

二三五七 ①③③⑤(赤)⑥ 5(金)678

 

ここに⑦をツモり最後に一萬を引き入れた8巡目、コヤマの少し低い声が卓内に静かに響いた。

 

「リーチです」

 

その発声は明らかに、さあオオハシ俺の罠に飛び込んでこいと俺には聞こえた。

第5話

 

リーチを受けたオオハシは一発目こそ無筋の2を押したが、次に1枚切れの中を手出しで2枚切って降りたようにも見えた。

 

(降りるなら六萬を出してこい。俺はお前から出上がりするために金五萬を切っているんだよ)

 

コヤマの心の叫びがもはや全従業員に聞こえている。

 

次巡、オオハシが勢い良くツモ切った牌は六萬だった。

 

 

「ロン、です」

 

 

おれはコヤマの達成感に満ちた溜め気味の発声に笑いそうになった。

第6話

 

今日のコヤマは単にキレて金牌を切っていたわけではなかった。

 

キレたフリをしながら大橋の喉元に一撃を狙っていたのだ。

 

オオハシは少し驚いた顔をしたが悔しさを殺そうと静かに点棒と祝儀を払った。

裏ナシの満貫3枚だ。

 

悔しがるオオハシにコヤマは

 

「そんなに悔しがる事はないよ、長年競技麻雀やってるとこういった技も覚えるもんだよ」

 

コヤマは勝ち誇った顔で大橋を見下ろした。

 

「いえ、6年ぶりだったのでこの手を上がりたかったんです。」

 

オオハシが小声で呟いたがそれを遮り

 

「わしも降り打ちするとこやった」

 

常連のイシカワのとっさんが手牌の6mを俺は止めたぜアピールしながら、手が伸びてオオハシの手牌を除きこむと

 

「げっ。なんやそれ」

 

①①①②③④⑤(赤)⑥⑦⑧⑧⑨⑨⑨

 

高め九連のメンチンだった。

 

先程までの嵌六萬の鬼決め打ちで卓上の主役だったコヤマの手牌から上がれなかったオオハシの手牌にその座を引きずり降ろされた。

 

「そらいらん牌切るわな。金使いのハネマン5枚やのうて助かりや。」

 

 

コヤマの後ろ姿からは髪の毛が逆立つほどの怒りのオーラを感じた。

 

 

オオハシはその後のラス前でコヤマの先制リーチに親で追っ掛け7700の4枚を直撃し終わってみれば5300点差でコヤマを捲りトップ、コヤマは2着と200点差の3着まで落ちていた。

 

 

「あれがハネマンやったらトップやったのにな」

 

ワハハと笑うとっさんに何も応えずに、完全にブチ切れた次局のコヤマの河の一打目に金五萬が輝いていた。

 

 



この記事を書いた人

りょう
りょう
ブログ『蒼山三段物語』で一躍有名になった男。
謎の多き人物。